ライフ / 生活

Vol.04

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卸だけしてて店出してなかったら、面白くなかったと思うんですよ

近鉄奈良駅をおりてすぐの東向商店街、そして猿沢池に続く三条通り橋本商店街に店を構える「麻布おかい」は、奈良の伝統工芸である「奈良晒(ならさらし)」(※1)を取り扱う店です。店長の岡井さんの実家「岡井家」は、古くから奈良晒の織り手として、その技法を今に伝えてきました。

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―学校を卒業してすぐにお店で働き始めたのですか?

店自体は僕が大学を卒業してから、東向商店街にオープンさせました。13年前ですね。それまでは店を持たず、ずっとお茶巾とかの卸を専門にしていました。商品は作っていたけど直販店はありませんでした。でも、卸だとダイレクトに勝負ができないので、僕が大学を卒業したのを機会に「自分たちで織って自分たちで商品を作れるのだったら、自分たちのお店を持って売ろう」ということになったのです。だから店があるところに僕が入ったのではなくて、僕と一緒に店ができたのです。

店ができるまでは、家で織って作って商品ができて、「持ってきて」って言われて持っていくだけでした。でも、店を持つことによって、うちの商店自体もやりたいことだけやっていて満足しているのではなく、お客さんと共に前に進めるようになりました。その結果、お客さんも「高いけど良いものやね」って言ってくれるのです。

―「奈良晒」は奈良の伝統工芸品ですが、織り手も少なくなってきました。岡井さんはお店に出られていますが、ご自分でも織っているのですか?

子どもの時は麻を遊び半分でさわったりしていました。商品としての織りを始めたのは大学を卒業してからで、店にも出ていますが家で織っていますよ。朝に田原(※2)の方に行って商品管理などの仕事をして、その合間に何センチとかしか織れないですけど1時間だけでも織ります。

麻をきれいに織るのは本当に大変で、湿度を保ちながら織っていくのですけど、水をつけすぎたらシミになり、乾燥したら糸がすぐ切れてしまいます。冬場はエアコンがつけられなくて、石油ストーブをつけてその上にやかんを乗せてその水蒸気で湿度を保っています。材料の麻の糸は、昔から残してあって、言わば「秘伝のたれ」ではないですが「秘伝の糸」です。今、使っている糸は、僕らのひいひいばあちゃんぐらいが縒(よ)った糸なのですが、あと20年ぐらいで無くなってしまうので、それが大きな課題やなって父と話しています。

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―実際に店に出ることで、新しい出会いや何か変化などありましたか?

まず、お客さんからダイレクトに意見をもらえるという点ですね。織り手であり店長でもあって、店でお客さんと話すわけじゃないですか。だからお客さんの意見を聞いて、織り手として「じゃ、こうしてみようかな」っていうような工夫にも繋がります。店に出ることによりいろいろな人と話もできるようになりましたし、たくさんの出会いもあったと思います。

また最近では、出店者が集まる事業に参加することで、中小企業の社長や、またその息子とか、僕と同じ境遇で同じように悩んでいる人たちとの出会いもありました。その人たちと関わるようになって、今までだったらお店が終わった後に家に帰るだけでしたけれど、「ちょっと飲みに行こうや」ってお互いの話を聞いて、愚痴もあったら意見も言えるっていう風な、ちょっとした仲間ができたのが面白いですね。

そのような出会いは、いろいろなことを考えるきっかけを与えてくれます。例えば、商品の陳列については「なぜこれをここに置くのか?」「どういう意図があるのか?」って。他にも「何のために自分はこの仕事をする?」など、本当にいろいろなことを考えるきっかけを与えられました。これまでは単純にお客さんが喜んでくれたらそれでいいなあって思っていましたが、最近はそういったことだけではなくて、もっとなにか社会貢献的なことも考えるようになりました。例えば、強いお店が一つあれば、みなさんそこを目指してくるわけじゃないですか。そしたらそれで他の店も「やってみよう」となって、お客さんが「奈良行ったら、ここ行って、あそこ行って…」と思うようにならないといけないな、とか考えるようになりましたね。

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―これからお店をどうしていきたいですか?

お店にしても新しいブランドにしても、まずは自分で考えて何かをする時間があればいいかなと思います。商品にしても、いろんな角度から見て新しく考えていることがあって。目の届かない場所って不安になるのでできていないですけど、本当はもうちょっとお店を任せられる人を雇って、僕は次のステップに行けたらいいですね。

奈良晒は昔から続いてきたものですが、伝統を守りながらも新しい変化も起こしたい。家業として奈良晒をしている所はほとんどないので、もちろんプレッシャーはあります。でも、これまでのように卸だけしてて店出してなかったら、今のようには面白くなかったかなと思いますね。

 

(※1)「奈良晒」 特に江戸時代初期から奈良の名産品として栄えた麻織物。徳川家康により幕府の御用品となり、武家の裃などに使われ一大産業となりましたが、今では少数の家が技法をつたえるのみです。
(※2)「田原」 奈良の市街地から車で山道を約20分。お茶とお米を特産とし、大和高原と呼ばれる標高の高い地域です。

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